1.はじめに
マゼラン海峡海底浄化実験の一環として、Kranのエンリケ達は、現在、チリ・マゼラン海峡の海底浄化実験を行っている。いい結果が出ている。この実験で400L/minOKノズルを使い海底にファインバブルを噴射している。我々は、エンリケに浄化実験の目的を聞いてみた。次のような回答が来た。「マゼラン海峡では鮭の養殖が行われている。海底には餌の残りや糞等が堆積し、海底は無酸素状態となる。鮭が収穫された後、その養殖場で再び鮭養殖する為には国の許可がいる。その条件は、海底部の海水中に一定のレベルの溶存酸素を有することだけでなく、特定の細菌や藻類が存在しないことである。また、深さは少なくとも50m、場合によっては300mであっても、この規制がかかる。
チリでは海峡の入江で長年鮭の養殖が行われており、海底には餌の残りや糞等が堆積し、鮭養殖に適さないほど環境が悪化している。海底を浄化し再び鮭養殖が出来るようにするのが、養殖業者と共にエンリケ達が行っているプロジェクトである。 世界中で海の入江等で魚養殖が行われており、大なり小なりにチリと同じような問題を抱えている。エンリケ達の実験成果は世界中に普及すると思われる。ここではエンリケ達が行っている実験について、彼とのメール交換の内容を以下にまとめる。また、300m海底浄化方法について私なりの提言をする。
2.海底浄化実験
(1)実験条件
現在の実験条件は次のとおりである。
- ノズルの入り口で水圧は 6バール(0.6MPa)
- ノズルの出口で水圧は 4.5バール(0.45MPa)
- ファインバブルを海底に到達できるようにホース150mに接続。
- 酸素供給量は 6L/min
- パイプの直径は2インチ
(2)FB発生装置の概要
(3)質問、疑問に対する回答
「我々は約2年前からチリの最南端のマゼラン海峡海底汚染を浄化し ようとしています。鮭養殖の収穫が終わった後、この地域で再び鮭を生産することができるように、海底を浄化する必要があります。海底部の海水の酸素化は、その目的の手段です。
我々は100mの深さでファインバブルを動作する必要があるので、6バール(0.6MPa)の圧力を400 L/minOKノズルにかけると流量が約520L/minに増えます。これでいいのか。どのような影響があるか。およびそれがウルトラファインバブル(ナノサイズの泡)生成プロセスにどのような影響を与えるかをよりよく理解したいと考えています。宍道湖のシジミに関する情報を添付していただきありがとうございます。」
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Q1 この実験で400 L/minノズルを使用している場合、流量が約520L/minになりますが、これはウルトラファインバブル(UFB)の生成に影響がありますか?
A 問題ありません。OKノズルに6バール(0.6MPa)の水圧をかけたので流量が520L/minになるのは当然です。ファインバブルの発生に良い結果になると考えます。
Q2 マイクロバブル(MB)とウルトラファインバブル(UFB)の比率はどれくらいで、400 L/minの流れに関して大きく異なりますか?
正確には分かりませんが、単位体積当たりのバブル発生数はあまり変わらないと考えています。 その理由は、水圧6バール(0.6MPa)を400L/minOKノズルにかけたにもかかわらず、背圧と管内抵抗等によりOKノズルの吐出量が520L/minと少ないからです。高い圧がかかることで、吐出量が約120L/min増えた分、1分間当たりのファインバブル(FB)の数は約30%増えます。
マイクロバブル(MB)は、ISOによりバブル径1μm以上と決まりました。0.6MPaの水圧がかかると5μm以下のマイクロバブルはウルトラファインバブルになります。その分ウルトラファインバブル(UFB)が多くなると考えます。水深60mの海底では約0.6MPaの水圧がかかり、また、海底までのパイプ内の水圧は0.4MPa以上がかかるので、酸素の供給量にもよりますが、溶存酸素も多くなります。これは加圧溶解の原理です。済州島でのヒラメ養殖の例からDo値が大きくなるのも推測できます。
現状はOKノズルに6L/minの酸素を供給してDo値が330%になっているとのこと。10L/minの酸素を供給するとDo値は400%近くに上昇するでしょう。海底60mの水圧は約0.6MPaなので、Do値約600%が飽和となります。ウルトラファインバブル(UFB)を長く安定させる為には、海底での酸素飽和状態に近づけるほうが良いと考えます。したがって、酸素の供給を10~15L/minに増やし、Do値を400~500%位にしたらどうでしょうか。ぜひこの条件で実験してください。
3.実験風景の写真
チリ・マガリャネス海峡(マゼラン海峡)の入江 |
OKノズルを搭載したFB発生装置 |
海底でT型噴射ノズルから酸素ファインバブルを噴射
4.実験結果について
(1)実験の主目的である海底部の海水の有酸素化はいい状況である。400L/minOKノズルに6L/minの酸素を供給し、海底でT型噴射ノズルから酸素ファインバブル水を噴射することで海底近傍のDo値は300%となった。
(2)汚染源の海底堆積物も非常に少なくなり、浄化されつつある。いい結果が出ている。有害な細菌と藻の分析結果はまだである。
(3)さらに500L/minOKノズルを2個追加し実験を続けることになった。(2020.8.11、500L/minOKノズルを2個、チリに出荷)また今後、水深300mの海底を浄化する為、30バール(3.0MPa)耐圧の2000L/minOKノズルの導入を計画中である。
5.考察
1)OKノズルに酸素を供給し、酸素ファインバブル水を海底に噴射することによって高効率でDo値を高めることができ、貧酸素化対策は達成されることは明らかになった。供給された酸素はほとんど溶解し、残りがファインバブルと考えられる。済州島でのヒラメ養殖の例では、OKノズルに供給する酸素の量によってDo値が比例して高まることが分かっている。今回の実験ではOKノズルに5L/minの酸素を供給してDo値が200%になっているとのことなので、10L/minの酸素を供給するとDo値は400%近くになると考える。
海底60mの水圧は約0.6MPaなので、加圧溶解の原理と同じで、Do値は約600%が飽和となる。海底部でウルトラファインバブル(UFB)の寿命を長くする為には、海底部の海水を酸素飽和状態に近づけるほうが良いと考える。したがって、酸素の供給を10~15L/minに増やし、Do値を400~600%位にしたら海底汚染の浄化処理能力は格段に高まると考える。この酸素供給量で実験する価値はある。海底の汚染処理がほぼ終了したら、酸素供給量をコントロールする必要がある。海底での高すぎるDo値は海底の生態系を壊す可能性があるからである。このことは注意する必要がある。
(2)海面近くの海水を取水しているので、海面近くの好気性バクテリアが海底の汚染物質を処理していると考えられる。ウルトラファインバブルがバクテリアを活性化しバクテリアの増殖により処理能力もアップしていることが想像できる。また、好気性バクテリアの増殖で害になる細菌を駆逐する可能性もある。また、酸素ファインバブルが問題の細菌を酸化殺菌している可能性もある。
(3)鮭の養殖中でも海水にファインバブルを与えることにより海底のみならず養殖場全体を浄化し、薬品等の使用量も極力少なくなり、良質の鮭が生産できると考える。
(4)ファインバブルを使用した鮭養殖場海底浄化は、エンリケ達が初めてであろう。このプロジェクトの成功が世界に広がるだろう。このプロジェクトは、良質の鮭を供給するだけでなく、海の汚染を回復し美しい海、安全な海を保持できる。これは国連が提唱しているSDGs精神そのものである。
6.300m海底浄化方法の提案
(1)ファインバブルが底面に沿い拡散
ファインバブルが底面に沿い拡散私は数年前から深い海、湖の浄化方法、特に琵琶湖底部の有酸素化の方法について考え続けていた。ある時、湖湖底浄化の簡単な方法を閃いた。そのヒントは日常的に行っている小型OKノズルの性能テスト中にあった。1L/ min未満の小型OKノズルの性能テスト時、水槽の水面から垂直に底に向けてファインバブルを噴射すると底に向かって水流ができる。その流れに沿ってファインバブルが下降し、底に着くと,底面に沿って広がることを目撃していた。目に見えるマイクロバブルで径が小さいと水の流れに沿って流れることも知っていた。この現象が湖底部の貧酸素対策の最もシンプルな方法であることに気づいた。名付けて「垂直対流浄化方式」
(2)「垂直対流浄化方式」を展示
私はエンリケからマゼラン海峡の300m海底浄化の話を聞いて、深い海底の浄化方法について上記のような垂直対流方式が現実的であることを確信した。2019年10月、「びわ湖環境ビジネスメッセ2019」に展示した。「垂直対流式浄化方式」を可視化した展示品とした。
(3)300m海底浄化方法について
深い海底の浄化方法は、60m海底浄化に使用した「T型噴射ノズル方式」と新提案の「垂直対流浄化方式」の2つの方式がある。どの方式を選択するか明確な基準はない。判断基準としては、海底の深さ、海底地形の状態、潮の流れ等であろう。
方式1T型噴射ノズル方式(宍道湖方式)
海底でT型噴射ノズルを使ってファインバブル噴射させる方式もある。しかし、深さ300m海底となると難しい課題も出てくる。
<メリットは>
●深さ50m前後ではT型噴射ノズルのジェット噴射で海底を耕すこと ができるので、処理スピ―ドが速い。
●浄化した場所が明確
●ピンポイントで浄化できる。
<デメリットは>
●300mの深さになるとT型噴射ノズルの操作性が悪い。
●固定でのT型噴射ノズルの安定設計が必要。
●30バール(3MPa)のポンプ、3MPa耐圧のOKノズルが必要。
●400mのホースになる。
方式2「垂直対流浄化方式」
この方式についての原理は上記した。
ファインバブル噴射口を沈める位置は、海深さの1/3位の深さまででいいと考える。その理由はOKノズルそのものの圧力損失は0.01~0.02MPa位と非常に小さいので海水の吐出圧はほぼ保たれて下向きの強い対流を発生させるからである。
<この方式のメリット>
●海中に入れるホース長さは約100mで良く、操作性が簡単。ホース端面にはホースの振れを止める重り兼用の噴射口を設ければいい。海流がある場合は、流れだけを考慮すればいい。
●ファインバブルが海底の広域に拡散し、広範囲を浄化できる。
●30バール(3.0MPa)に耐えるファインバブル発生ノズルがいらない。
●13バール位(1.3MPa)位の水圧を出すポンプでいい。
7.バイパス回路方式の提案
(1)酸素とバイパス回路でOKノズル有功利用
OKノズルに酸素を供給する場合はメイン配管とは別にOKノズルを組み込んだバイパスを設けると大きな効果を発揮する。右の写真は韓国済州島の砂底ヒラメ養殖のバイパス回路に300L/minOKノズルを取付けた写真である。80m先にある10個の養殖池にDo値100%の海水を供給している。酸素供給量は約10L/minである。供給量を増やせば比例してDo値は高くなる。海水の場合効果的である。
(2)500L/minOKノズルでDo値100%の海水を20000L/min確保
海水の場合、OKノズル単独の回路で酸素を供給するとDo値を500%近くまで高めることが出来る。したがってDo値100%の水が欲しい場合は、小さいOKノズルでもバイパス回路を組めば、4、5倍の吐出量の水を確保できることになる。配管途中のバイパス回路にあるOKノズルに適度の背圧がかかっていることも条件である。例えば、500L/minOKノズルを使用した場合、メイン配管に1500L/minの海水を流せばDo値100%の海水を20000L/min確保できることになる。当然、酸素供給量は500L/minを400% にする酸素量が必要となる。